海の向こうのMLBでは常に新しい戦術が考察されています。今回、紹介する「オープナー制」と「タンデムシステム」はこれまでの先発投手の定義を変える可能性を秘めています。これまで先発投手といえば初回から長いイニングを投げて、勝利数を稼ぐことこそが使命と考えられきましたが、定義が変わりつつあるのです。
(1)上位打線との対戦回数を減らすオープナー制
(1-1)オープナー制はより効率的にイニングを消費する戦術
(1-2)オープナー制は予告先発を機能させなくする
(1-3)オープナー制はリリーフが準備しやすい
(1-4)オープナー制は先発の層が薄いチームに有効
(2)二人の先発で投げ抜くタンデムシステム
(3)「勝利数」の重要性が薄まりつつある
(1)上位打線との対戦回数を減らすオープナー制
先発投手の定義を変える可能性がある戦術として、まずは「オープナー制」を紹介します。オープナー制とは初回のみを投げるリリーフ、オープナー(opener)を用意して、2回以降は本来の先発にスイッチする戦術です。どこのチームも上位打線は下位打線よりも強力なので、初回のみを優秀なリリーフで切り抜けます。
(1-1)オープナー制はより効率的にイニングを消費する戦術
何故、オープナーが考案されたかというと、優秀な上位打線との対戦回数を減らして、なおかつイニングを消費するためです。先発投手は1打順目、2打順目、3打順目と重ねていくに連れて防御率が悪化していく傾向があります。原因が完全に究明されているわけではありませんが疲労、球への慣れなど様々な要素が考えられます。1イニングに平均4人の打者と対戦すると考えると、オープナー制を導入することで本来の先発は5番打者から始まる下位打線から投げることになります。仮に6イニング投げるとしたら、必然的に上位打線と対戦する回数が減るので、投手の成績を向上させることができると考えられます。
(1-2)オープナー制は予告先発を機能させなくする
オープナー制を導入するメリットとして予告先発が機能しなくなるので、「左投手だから右打者を並べる」と言った戦略が取れなくなります。それでは「下位打線に優秀な打者を入れれば良いのでは?」と考えるでしょうが、優秀な打者が打席に立つ回数を減少をさせてしまうことを意味します。
(1-3)オープナー制はリリーフが準備しやすい
オープナーは必ず初回になげることになるので、従来のリリーフと違い準備がしやすくなります。例えばクローザー(抑え)でしたら味方チームがリードしている時にの9回など、必ず定期的に投げられるわけではありません。その点、オープナーでしたら必ず初回に投げることになるので、リリーフ陣も調整を含めた準備がしやすくなります。
(1-4)オープナー制は先発の層が薄いチームに有効
先発の層が薄いチームに有効でタンパレイスはオープナー制を5月19日から導入して、チーム防御率を劇的に向上させました。「先発が弱いけど、中継ぎの層がある程度は確保できている…」といったチームは導入するメリットが大きいでしょう。
(2)二人の先発で投げ抜くタンデムシステム
2017年にワールドシリーズを制したヒューストン・アストロズは、二人の先発で投げ抜くタンデムシステムで話題を集めました。タンデムシステムは試合を前半と後半に分割して、1人目は5イニングで75球まで、2人目は4イニング60球を目処とします。投手ローテーションは中3日。投手の負担を軽減します。ワールドシリーズでもダンデムシステムは効果的に機能しました。
アストロズは2013年から断続的に試して、タンデムシステムを確立しました。登板機会が増えることは、投手が自身の実力を証明する機会の増加を意味し、チーム事情で才能を埋もらせてしまう事を防ぐことができます。アストロズは他にもフライボールレボリューションで打撃面でも革命を起こしています。
(3)「勝利数」の重要性が薄まりつつある
投手の評価基準として勝利数があまり重要視されなくなる可能性が生まれつつあるのも、「オープナー制」と「タンデムシステム」の浸透を加速させる要素になるかもしれません。きっかけは2018シーズンのNYメッツのジェイコブ・デグロム投手の成績です。8/26時点で防御率は両リーグトップの1.71。奪三振が214とナ・リーグ2位。投球回も174とイニングイーターとも言える成績。これだけ圧倒的な成績を残しているのにも関わらず8勝8敗とシーズン終了時には負け越しの可能性も考えられるのです。史上初の負け越しにも関わらずサイヤング賞を受賞する可能性が生まれています。
「オープナー制」と「タンデムシステム」の紹介いかがでしたでしょうか?野球が日々、驚くべきスピードで進化していることがよく伝わるかと思います。