幼少期の投球数ってどれくらいが適切?




(1)はじめに
(2)首都大学リーグの新たな取り組み
(3)青少年の投球数について
(4)アメリカの投球制限ガイドラインについて
(5)しかしながら・・・
(6)投球障害における個人的な見解について
(6-1)練習量について
(6-2)(練習量)野球に置き換えてみると
(6-3)<推奨>平日に週1〜2回練習を
(7)最後に

(1)はじめに

投球数。アメリカでは、投手の肩は「消耗品」という考え方があり、小さいころから徹底して投球数の制限、変化球の制限が行われています。日本でも甲子園を見ると、指導者の考え方も変わってきており、1人の投手が先発完投から、先発、中継ぎ、抑えと役割を分担し3投手の継投になるなど、よりプロ野球に似たスタイルとなってきました。
しかし、この考え方は高校野球では広まってきているものの、まだまだ1人の投手による先発完投のチームは多く、投球制限についての是非について問われている状況が続いています。

(2)首都大学リーグの新たな取り組み

今年の春のリーグ戦より、首都大学リーグでは投球制限の新たな施策がはじまりました。あくまでガイドラインで、違反したとしても罰則は設けていません。
施策内容は次の通りです。
・リーグ戦の第1戦目は、投球制限はなし。
・リーグ戦の第2戦目は、前日の投球数が121球以上の場合、50球までとする。また、投球中に50球を超えた場合はイニング終了まで投げることができる。
・リーグ戦の第1戦目の投球数が120球以内の場合、連投可能。
・リーグ2戦目が雨天により1日空いた場合は、投球制限はなし。

(3)青少年の投球数について

首都大学リーグまで取り組みを始めた「投球制限」。最近では全日本軟式野球連盟、公益財団法人日本少年野球連盟ボーイズリーグで投球制限の規定を設けています。(2016年改定あり)
・小学3年生以下は1日5イニングまで。
・投球イニングは1日7イニングまで。
・その他、連投や2日連続での投球数上限あり(軟式・硬式で内容異なる)
以上の内容になっています。また、練習での全力投球数を取り決めしています。
【小学生】1日50球以内、試合を含め週200球以内
【中学生】1日70球以内、試合を含め週350球以内
【高校生】1日100球以内、試合を含め週500球以内(軟式)

こちらに関して、実際に現場で守られているかどうかは監督・コーチ次第となります。しかし、この投球数を守ったからといって必ず怪我をしないとは言い切れません。あくまでも怪我のリスクを抑えるための取り組みと考えていただけたら幸いです。

(4)アメリカの投球制限ガイドラインについて

さて、日本でも投球制限が設けられるようになってきた昨今、野球の最先端を行くアメリカはどのような取り組みを行っているか、ご存知でしょうか。実は2014年にメジャーリーグとアメリカ野球連盟が「ピッチャーの投球数ガイドライン」を発表しています。現在ではMLBのサイトでも年齢における球数制限数が記載されています。下の表をご覧ください。

http://m.mlb.com/pitchsmart/pitching-guidelines
(MLBのサイトを参照)

いかがでしょうか?
7〜8歳だと1日の投球数上限は50球。50球投げた場合は中2日の休息が必要ということになります。
私自身、13歳〜14歳の時に野球肘になりました。このガイドラインを初めてみた時、自身の過去を振り返り、投げすぎたことで怪我をしたのかなと感じる部分がありました。

練習をしないと上手くなりませんが、練習のしすぎはオーバーユース(投げすぎ)での怪我に繋がります。身体のできていない時期は無理をするのではなく、適切な練習量を行い、怪我をしないこと。
怪我をして、大好きな野球ができないのはとても苦しいし、好きな野球を嫌いになるきっかけにもなりかねません。好きなものはずっと好きでいて欲しい。

このガイドラインは、適切な投球数と休息の関係を年齢ごとに示されています。特に指導者の皆様は、選手と近い距離にいるので、子どもたちの違和感や変化について感じやすいと思います。一番大切なことは怪我が起きないことですので、指導者の皆様は選手をよく見ていただきたいです。

(5)しかしながら・・・

さて、ここまではみなさんに投球制限と怪我についての見解を述べさせていただきました。しかし、驚くべきことに、日本、アメリカの投球制限の指標について、医学的な根拠がないため、これが正解だとは言い切れないということです。今後、明確なデータが出てきて、もしかしたら日本の教育方法に近い形が正解になるかもしれません。こればかりはどれが正解だとは一概に言えないのですが、この指標を含めて考えている方向性は同じで、「選手、投手が投球障害による怪我のリスクを軽減する」ということです。この考えだけは全員が共通の認識として持っていただきたいと考えています。

(6)投球障害における個人的な見解について

ここからは私の見解について書かせていただきます。様々な考え方がある一方で「こういう考え方もあるんだ」ということを覚えておいていただきたいです。

(6-1)練習量について

練習量ですがまず、こちらの文章をお読みください。
「マラソン大会のために練習したランニング量が週30km以上走っている選手と、週30km未満の人では、週30km未満の人の方がレース後にランニングに関する怪我をするリスクが134%増加した」というデータがあります。(2013年4月号「スポーツフィジカル・セラピー紙」より)
これはマラソンにおけるデータですが、サラリーマンなどの週末ランナーなど、週に30km未満の選手はマラソンを走るために十分な練習量ではないため、怪我をしやすくなると考えられます。

(6-2)(練習量)野球に置き換えてみると

この例を野球において置き換えて考えてみるとある疑問に至りました。果たして少年野球をやっている選手たちは平日どれくらい練習、特に投球動作をしているのでしょうか?という点です。
もし上記のマラソンの例で例えるのであれば、土日しか投げないという環境であれば、平日の肩・肘へのストレスが軽く、土日にストレスが強くかかるために怪我をしやすくなる。という可能性も捨て切れません。

これはいわゆる「練習不足」で肩・肘に過度なストレスがかかってしまうために怪我のリスクが上がっているとも考えられます。もちろん、正しい投げ方ができていないために怪我のリスクが上がっている可能性もありますが・・・。

(6-3)<推奨>平日に週1〜2回練習を

以上の理由から、私が考える投球数については、アメリカの投球制限指標を元に、週に1〜2度、50球をメドにキャッチボールなどの投げる練習を行うことをお勧めします。キャッチボールだと、場所や相手がいなかったりする場合もあるので、壁当てやシャドーピッッチングなど、身近にできることを行うことが大事だと考えます。

(7)最後に

平日の練習時間ですが、私は1時間だけでも十分な練習ができると考えています。特に、正しいフォーム、投げる・打つ機会は室内でもできます。私がコーチとして行なっている「池袋野球教室」では週に1度の練習で生徒さんたちは飛躍的に成長しています。
大切なのは、土日だけではなく、平日にも練習日を設けて取り組むことです。練習過多も怪我の原因になりますが、練習不足も怪我の原因となることを十分に理解してください。何事も「程よい」くらいがちょうどいいですね。是非参考にしていただければ幸いです。